Imaginary Code

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とあるプロジェクションマッピング作品に感じるモヤモヤについて

みなさんこの動画はご覧になりましたか? 

BOX


この『BOX』という作品では、アームロボットに取り付けられた動くスクリーンに対してプロジェクションマッピングが行われます。スクリーンの動きに同期して正確に投影される映像は実に幻想的です。しかし、どこかモヤモヤとした考えが頭をもたげます。「果たしてこれはプロジェクションマッピングである意味はあるのか?」と。

モヤモヤの原因

 投影されている映像には視点位置に依存する3次元的な表現が多く含まれています。言い換えると、カメラの視点から見たときにだけ幾何学的に正しく見えるような絵を投影しています。シーン内に人物が登場しますが、彼の視点からはこういう風に見えていないはずです。おそらくこれを撮影しているカメラもまたアームロボットに固定され、事前にプログラミングされた動きをしているのでしょう(あるいはモーションキャプチャなどの計測機器を使ってカメラ位置を正確にトラッキングしている可能性もあります)。

 このことに気が付くと「これはライブパフォーマンスとして見れる要素はあるのか?」とか「全部CGで良いのでは?」などと考えてしまいます。もしかすると、彼らはこの作品をライブパフォーマンスやインスタレーションとして見ることができる別な鑑賞形態を持っているのかもしれませんが、この動画だけ見ると、映画と同じような「映像作品」じゃねーのかとツッコミを入れたくなります。

『プロポーション』という作品

 このモヤモヤに言及するにあたり、関係の深い作品を紹介したいと思います。ライゾマティクスの真鍋大度さんと石橋素さんが作った『プロポーション』という作品です。


ICC ONLINE | アーカイヴ | 2011年 | オープン・スペース 2011 | 展示作品
この作品は同時に『少年よ我に帰れ』(やくしまるえつこメトロオーケストラ)のMVでもあります。


 この映像は、アームロボットの先にレーザプロジェクタとカメラを取り付け、機械仕掛けの模型にCGを投影しながら撮影されています。大事なのは、これが録りおきの映像を見せる作品ではなく、リアルタイムに撮影されているものを見せる作品だということです。この動画単体で見てしまうと、先ほどの『BOX』と同様のモヤモヤを感じるのですが、美術館で動態展示されたものには「展示の妙」がありました。以下、2011年に新宿のICCで展示されていたときの様子を記憶をたどりながら説明します。


 展示部屋に入るとまず大きなスクリーンが目に入ります。そこに流れている映像を見ると「なるほどカッコイイミュージックビデオを作ったんですね。やくしまるえつこいいですね」と思うわけです。上映が終わってふとスクリーンの反対側に壁で仕切られたスペースがあることに気付きます。そこへ行ってみると、アームロボットとミニチュアのセットがウィンウィン動いてるではありませんか。え、これ、録画じゃないの・・・? もう一度スクリーンの映像に目を向けると・・・もうさっきと同じ感覚で見ることはできません。「これはリアルタイムなんだ」とわかっていると見えてくるものがまったく違ってくるんです。ほぼ同じ映像なのに。あれには戦慄しました。


仕掛けがわかる動画はこちら。


 僕はこの作品にリアルタイムであることの意味深さを感じました。僕の中でこの体験は、VRとかARとかSRが作り出す「現実感」について考えるときの重要なリファレンスになっています。

すべて計算ずくだった!

 あの体験が意図的に設計されたものなのかどうかがずっと気になってたんですが、先日このことについてTwitterで書いていたところ、制作者の石橋さんご本人からコメントを頂きました。


すげーよ! すべて計算ずくだよ!!

プロジェクションマッピング作品に思うこと

 最初の『BOX』の話に戻ると、やはりこの作品はYouTubeの動画ではなく、ライブで見たいという気になります。ライブでの展示形態がどのようになるかは勝手に想像するしかありませんが、例えば「プロポーション」と同じようなセットアップで見せることもできるでしょうし、あるいは鑑賞者のヘッドトラッキングをして、鑑賞者からはきちんと見えるような絵を映し出すというやり方もあるでしょう。あ、それ、自分で作りたくなってきたぞ。

 やはりプロジェクションマッピングを使った作品は、実世界であることやライブであることの意味が感じられるものが見たいなぁというのが率直な感想です。最後に余談ですが、ICCでライゾマティクスによるPerfumeの展示が2013年10月20日(日)まで開催されてますので、ぜひ。

追記(2013/10/5)

 この記事を書いた後、ライゾマティクスの真鍋さんを含め、いろいろな方からフィードバックを頂きました。「あれは最初からアームロボットのプロモーションのための映像作品なんじゃないの? だから別に映像作品として鑑賞するものでいいんじゃないの?」というご指摘もいくつか拝見しました。ありがとうございます。確認してみたところ、確かに会社の技術プロモーション的な作品のようです。メイキングの動画もありました。



『Box』を制作したBot & Dollyという会社は、ロボティクスと映像制作が専門のデザイン&エンジニアリング・スタジオで、6軸産業用ロボットの正確なモーションコントロールを行うハードウェアとソフトウェアを売りにしているようです。他にも6軸アームロボットを使ったプロダクトが紹介されています → http://www.botndolly.com/introducing-iris


 この件に関して僕がいちばん言及したいのは、体験のデザインです。『Box』は映像作品として純粋にカッコイイと思いますし、特に終盤のアームロボットの輪郭が透けて見えるシーンはお気に入りです。しかし、ここまでの超絶技巧で作られているものが、動画という体験に収まってしまっていることには非常にもったいなさを感じます。上で書いたとおり、ライブで見せることも可能だと思うので、ぜひとも生で見たい、そう思います。


 「CGでいいんじゃね」に類する反応もいくつか見かけました。受け手の眼前に表出したものが、フルCGによる体験とほぼ同質のものになってしまっていれば、こういう感想が出てくるのは当然です。一方で、見た目がCGと同質だとしても、ロボットを使った技術的なチャレンジに価値やロマンを感じる人もいるでしょう(それも含めての体験)。アートに正解はありませんので、ここから先は完全に好みの問題ですね。